どうしても許せなかった。
なぜ関係のない彼女が、こうまで罵られなければならないのか――――っ!
理不尽な、お門違いな、ただの八つ当たりという言葉などで解決してしまうには、あまりにもひどい言いがかり。
いつから…… いつからこのようなコトが行われていたのだろうか?
バスケの練習の帰り、蔦は毎日欠かさず【唐草ハウス】へ顔を出す。
事情のある子供たちと顔を合わせるなど、なんとなく恥ずかしい。だから中にまでは入らないが、事前に連絡をしておけば、涼木が出てきてくれる。彼女とは、毎日顔を会わせる。
それなのに、一言も教えてはくれなかった。
今まで何も言わなかった涼木に苛立ち、だがたぶん、蔦に心配をかけまいと口を閉ざしていたのだろう。その姿をいじらしいと思った。
今まで以上に一層、愛おしく想えた。そうして、今まで気付かなかった自分に、腹が立った。
自分のせいだ。自分がなんとかしなければ―――
だが、自分が何かしたところで、誰も耳を傾けてはくれない。それはわかっている。
どうすれば―――――
「お前には、なんとしても協力してもらう」
蔦の声に、感情は見えない。むしろ、溢れそうな感情を押し殺しすぎて、逆に何も出すものがないといったところだろうか?
「こんなコトをしても、何にもならん」
「そんなコトはないさ。部は快勝している。部員も練習に励んでくれる。俺に対する嘲笑も減った。さすがだよ」
聡がバスケ部の練習に顔を出すと、それに釣られて女子生徒が集まった。彼女らの視線目当てに、他の部員も顔を出すようになった。
「バスケは未経験だと言っていたが、そうは思えないな」
聡は、バスケを本格的にやったことはない。だが背の高さを買われて、何度か3on3に誘われたことはある。
初めての試合、聡と蔦で辛勝した。
「まぁ 俺がヤル気を出せば、ざっとこんなモンよ」
女子生徒にちやほやされて勝利の味を知った他の部員は、その味に執着するようになった。蔦を弄繰りまわすよりも、快いと思うようになったのだ。
「俺は、役目は果たしたはずだ」
「まだだ」
もう一度、ボールを床に落す。再び手の中に吸い込まれる。
「まだ終わってはいない」
「他のヤツらがやる気を出せば、それで事は足りるはずだ」
「お前がいなくなれば、また事は元に戻る」
手にしたボールを無造作に投げる。慌てて両手で受け止める。肩にかけたスポーツバッグが、ズルリと落ちた。
「お前には、俺が主将を引退するまで、バスケ部に在籍してもらう」
「ふざけるなっ!」
ボールを床に叩きつける。
「そんなとこまで付き合いきれるかっ! 限界だっ!」
「限界?」
蔦がふふっと笑みを含む。
「何の?」
コロコロと、あさっての方向へ転がるボール。チラリと視線を投げる。
「大迫……… 美鶴か?」
―――――っ!
思わずギリッと歯を噛む聡。蔦は薄っすら瞳を細める。
|